司教とシスター

この記事は1か月前の投稿です

今回はFANBOX限定で公開している小説をチラ見せします!

『憧れのひんがしの国』

【登場キャラ】

司教…世界の文化に興味深い眼差しを持つ、おちゃめな中年男性。

その笑顔にはいつも冒険心と好奇心が宿っている。髪の毛が若干の白髪を交えているが、その瞳には未だに冒険者の輝きが宿っている。

シスターアンナ…教会でひときわ目立つ存在。彼女の金髪は太陽のように輝き、幼さが残る顔立ちには天真爛漫さがある。だが、その見た目とは裏腹に、彼女の内面には強い信念と果敢な精神が秘められている。

大地母神…シスターアンナが信仰する神。大地の豊穣と出産を司る女神で、それゆえ神官達に対して結婚を禁止していない。

新年が明けた教会。通常ならば、新しい年を祝うために多くの信者たちが訪れるはずの場所が、今日は日が高くなっても誰一人として訪れていない。大地母神への日課の祈りを終え、この不思議な事態に首を傾げるシスターアンナは、何やら熱心に書物に没頭している司教に声をかけた。

「司教様、今日は新しい年を迎える日なのに、なぜ町の人々が一人も訪れないんでしょうか?」

その問いに、司教は書物から顔を上げて、笑顔で答える。

「ふふ、ひんがしの国では新年の日を『元旦』と呼び、国民全員が休む日とされているんだよ。今年は、その風習にならって、我々の教会も元旦休みにすることにしたんだ。」

シスターアンナは、目を輝かせながら司教の話に耳を傾けた。

《ひんがしの国》とは、八百万の神が住むと言われる、まるで童話から飛び出してきたような国。司教は、その東の国の正月の風習をもっと再現したいと考えているようだ。シスター・アンナは、そのお手伝いをすることになった。

「ひんがしの国では、お正月に神様の方角を向いて鏡餅を食べると、その一年を健康に過ごせるとされているそうだ。次はこれを再現してみようじゃないか。」

司教は嬉しそうに言うと奥から何か持ってきた。

「モチというのは米を材料に作るらしいのだが…この辺りでは取れない食材なので特注でパンを焼いてもらったんだよ!今日はこれを鏡餅の代わりに使い文化体験をしてみよう」

「餅には醤油を混ぜた調味料をかけるらしいのだが…あいにく醤油もこの国にはないから、代わりにミルククリームを詰めてもらった。このパン…ごほんっ、鏡餅を神様の方を向いて一気に食べるとその年は一年中健康になるらしい。すごい魔法だね」

司教の解釈は少々…いや、かなり間違っていた。

神様の方を向いて食べるというのは、もしかしたら恵方巻きと混同しているのかもしれない。シスター・アンナは、司教の説明に戸惑いを隠せなかった。

不安そうなアンナの表情を見て、司教は優しく声をかけた。「シスターアンナ…不安でしたら無理をする事はありませんよ。手伝いたいと思ってもらっただけでも私は嬉しいのです。この鏡餅は私が食べましょう」

司教は、幼い頃に孤児となったアンナをこの教会で引き取った恩人。アンナにとっては父親同然の存在だった。ただ、世界の文化に対する興味が他の人と比べると強いのだ。それゆえ他の人からは変人と扱われることもあり、大司教は齢40になっても独身だった。アンナはそれは偏見だと感じていた。

前回は、ひんがしの国の「禊(みそぎ)」を再現しようと教会の中庭に巨大なバスタブを設置し入浴しようとした。しかしバスタブから水が溢れ出し、教会や周りの庭園は水浸しになってしまったのだ。

司教が、いつも町の商人から買っている『ひんがしの国の巻物』は、果たして本物なのだろうか…。アンナはそんな疑問を抱いた。

バスタブから溢れ出た水でビショビショになりながら教会の掃除をする司教。しかしその顔は微笑んでいた。ひんがしの文化を体験して喜ぶ司教の無邪気な笑顔を思い出したアンナは決意を固めた。

『あの巻物が本物かどうかなんてどうでも良いわ…私にとっては司教様の笑顔が大切ですもの』

「司教様、私、"鏡餅"を食べてみます!」

そう言ってアンナは慎重にミルククリームパン団子を受け取る。

神様の方を向いて一気に食べるという独特の儀式に戸惑いながらも、パンから漂ってくるミルククリームの甘い香りには興味津々だった。ミルククリームは町でも高価な甘未。結婚式などで振舞われることはあるが普段はあまり食べれない高級品だった。

『甘そう…これはきっと美味しいに違いないわ』

アンナはパン団子を不思議そうに眺めつつ、大司教の指示に従って大きく口を開いてゆっくりとほうばった。

つづく

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